容量分析の実験

                                 (参考文献: 基礎分析化学 (新・物質科学ライブラリ))


  1. 容量分析の基礎:


  原子吸光やICP、蛍光X線などの機器分析では 有効数字が2〜3桁程度であるのに対し、湿式分析(容量分析)や重量分析では4桁が可能である。
  容量分析(=滴定分析 ・・・ mM程度の目的物質を含む溶液に、それと反応する滴定剤を含む”標準液(*)”を滴下し、”終点”まで加えられた標準液の量から目的成分を定量する方法)は、以下の条件のときに有効な分析法である。
  ・ 反応が化学量論的であり、副反応が無い。 ・ 平衡が生成系に大きく偏っていて(=平衡定数が大きい)、目的成分の99.99%以上が反応する(=”定量的”に反応)。 ・ 反応速度が大きく、滴下すると同時に反応が完了する。 ・ 終点が明瞭であり、”当量点”に等しいか、あるいは補正できる。
  (* この”標準液”は、4〜5桁まで濃度が分かっていなければならない。)

  ・ モル濃度平衡定数:  一般に化学反応  aA +bB = cC + dD における平衡定数は、  で与えられる。([ ]はモル濃度(mol/l)) モル平衡定数が大きいほど、反応が右に進む。

  ex) ・ 化学反応 A + B = C + D について、A: 0.30mol、B: 0.50molを 1l の水に溶かした溶液は、

  @ 平衡定数 K=0.70 の場合: C の平衡濃度を x (M) とおくと、

  [A]    [B]  [C]   [D] 
 初濃度(M) 0.30 0.50   0   0
平衡濃度(M) 0.30−x 0.50−x   x   x

より、平衡定数 K = x2/((0.30−x)(0.50−x) = 0.70、  これは、2次方程式 0.30 x2 + 0.56 x + 0.105 = 0 となり、これを解いて正の値をとると、
    ∴ [A] = 0.13(M)、 [B] = 0.33(M)、 [C] = [D] = 0.17(M)

  A 平衡定数 K=7.0×1015 の場合: 今度は A の平衡濃度を x (M) とおくと、

 [A]    [B]  [C]   [D] 
 初濃度(M) 0.30 0.50   0   0
平衡濃度(M)   x 0.20−x 0.30−x 0.30−x

  x は非常に小さいので、 [B] ≒ 0.2(M)、 [C] = [D] ≒ 0.3(M) として、平衡定数の式に代入すると、
  K = (0.30×0.30)/(x ×0.20) = 7.0×1015  したがって、 x = [A] = 6.4×10-17 (M)  となり、反応はほとんど完全に右に進むことが分かる。


  ・ 熱力学的平衡定数:  化学反応  aA +bB = cC + dD において、モル濃度の代わりに”活量” a を用いて、
        で表される。 これは、ギブズの標準生成自由エネルギー凾f と、   の関係にある。

  活量は、活量係数 など を用いて、 ・[A] などのようにモル濃度の係数として表される。 十分希薄な溶液では  = [A] ( =1) などとなり、上記のモル平衡定数がそのまま用いられる。
  凾f は、反応がどちらの方向にどのくらい進むかの、”反応の駆動力”の目安となる。添字 °は、標準状態(25℃、 溶液の濃度:1(M) あるいは ガス分圧:1(bar))を表し、R は気体定数(8.314(J・K-1・mol-1)、T は絶対温度(K)。
   特に、 25℃では、  凾f = −5708 log K 


  ・ 酸塩基反応:  水溶液における 酸: HA の解離反応は、  HA + H2O = H3O + A  で表され、酸解離定数 K 希薄溶液で、
       で表現される。
  塩基の解離反応は、 B + H2O = HB + OH であり、塩基解離定数は   で表される。

 (* H3Oは ヒドロニウム・イオン(=Hの1水和錯体)、 OH は 水酸化物イオン(水酸イオン) と呼ぶ。ただし煩雑なので、H3Oは単純に 水素イオン H と表記することが多い。)


  ・ pH(水素イオン指数):  溶液の酸性度の指標として、  pH = −log aH+  で定義し、希薄溶液では、
                  pH = −log [H3O]   となる。

  ex) ・ 25℃において pH = 4.01 の水溶液(=フタル酸塩pH標準液)の 水素イオン濃度は、 [H3O] = 10−pH = 10−4.01 = 9.8×10-5
  また、 pOH = 14 − pH = 9.99、 [OH] = 10−pOH = 1.0×10-10  (* 有効数字に注意)

  (資料)




  2. 酸塩基滴定(中和滴定)の実験


  (1) 酢酸の水酸化ナトリウムによる滴定曲線:

  弱酸である酢酸を滴定する場合、当量点付近のpH変化を急峻にするために、強塩基である水酸化ナトリウムを用いる。(* 中和滴定の滴定剤には、強酸、強塩基を用いる。弱酸、弱塩基を用いてはならない。)

  ・ 約0.02M 酢酸 HOAc(=CH3COOH) 50.0mlを、0.10M NaOH(* 市販の1N溶液(1.000mol/l) を10mlホールピペットと100mlメスフラスコで正確に10倍に希釈したもの)で滴定する。

  (pHの計算値)
  @ まだ滴下してない時:  酸解離反応は、 HOAc = H + OAc (pKa =4.75
  酢酸の全濃度を C とすると、
  物質収支より、 [HOAc] + [OAc] = C、  弱酸なので C ≒ [HOAc] とおける。  また、電荷収支より、 [H] = [OAc
  したがって、[H] = x とおき、 Ka の式( Ka = [H][OAc]/[HOAc] )に代入・整理すると、 x = √(Ka・C)
  ∴ pH = 1/2(pKa − log C) = 1/2(4.75 + 1.70) = 3.12

  A 5.0ml滴下時(=半当量点):  中和反応は、 NaOHを滴下した分だけ OAc が生成するので、 HOAc + OH = OAc + H2O
  ここで、 [OAc] = (0.10×5.0)/(50.0+5.0) = 0.50/55.0、  [HOAc] = (0.020×50.0−0.10×5.0)/55.0 = 0.50/55.0
  したがって、ヘンダーソン・パッセルバルヒ式より、
  ∴ pH = pKa + log([OAc]/[HOAc]) = 4.75 + log 1 = 4.75、  すなわち、半当量点では pH = pKa となる。

  B 10.0ml滴下時(=当量点):  OAc加水分解反応 OAc + H2O = HOAc + OH (pKb = 14 − pKa = 9.25) が pH を決定する。 
  NaOAc の全濃度 C は、物質収支より、 [HOAc] + [OAc] = C = [Na]、  また、電荷収支より、 [Na] = [OAc] + [OH
  したがって、 [HOAc] = [OH]  これを = x とおくと、 Kb の式( Kb = [HOAc][OH]/[OAc] )に代入すると、 x = √(Kb・C)
  ∴ pOH = 1/2(pKb − log C) = 1/2(9.25 − log((0.10×10.0)/(50.0+10.0)) = 1/2(9.25 + 1.78) = 5.52
  ∴ pH = 14 − pOH = 8.48

  C 11.0ml滴下時:  pH は 過剰に加えられた 強塩基(解離度 ≒ 100%)である NaOH の濃度によって決まるので、
  [OH] = (0.10×11.0−0.020×50.0)/(50.0+11.0) = 1.62×10-3   ∴ pH = 14 + log(1.62×10-3) = 11.21


  ・ 以上の滴定過程を、 pHメータを用いて測定しながら、 pH vs. NaOH滴下量 をプロットした。 pHメータ(SAGA-PH201、秋月電子)は、使用直前に フタル酸塩pH標準液(pH=4.01)、および、ホウ酸塩pH標準液(pH=9.18)で較正し、このpH範囲で pHメータ の誤差が ±0.03 以内であることを確認した。
  また、指示薬として フェノール・フタレイン(1g/100ml 85%エタノール−水溶液、変色域(無色→赤): pH=8.0〜9.4)を 3滴加えた。

  結果は、NaOH: 0ml のとき pH=3.15、 5.0ml のとき pH=4.65、 10.00ml のとき pH=7.65、 10.05ml のとき pH=8.78、 11.0ml のとき pH=11.17、などとなり、計算値との良い一致が得られ、当量点における滴定曲線の変化は急峻で明瞭だった。 当量点は 測定点を内分して、NaOH 10.04ml であり、滴定した 約0.02M酢酸の濃度は 0.02×(10.04/10.00) = 0.0201M と推定された。
  また、この程度の濃度での滴定では、フェノール・フタレインが薄赤色になり始めたところが当量点だった。(* さらに希薄な0.001M NaOHで0.001M酢酸を滴定するような場合は、指示薬として クレゾール・レッド(黄→赤への変色域:pH=7.0〜8.8)などを用いる。 注) あまり希薄な場合は誤差が大きくなる)



  (2) 蓚酸の水酸化ナトリウムによる滴定曲線:

  ・ 約0.02M蓚酸 (COOH)2 (2塩基酸、弱酸に分類されているが、その中でも強酸; H2A と表記)50mlを、0.10M NaOHで滴定する。(蓚酸の第一酸解離 pKa1 = 1.27、第二酸解離 pKa2 = 4.27

  @ まだ滴下していない時:  pHは、第一酸解離によって決まるので、全濃度 C として、  pH = 1/2(pKa1 − log C) = 1/2(1.27 − log0.02) = 1.48 (* ただし、弱酸(C ≒ [H2A])として計算)

  A 5.0ml滴下時(=第一当量点までの半当量点):  pH = pKa1 + log([HA]/[H2A]) = pKa1 + log 1 = pKa1 = 1.27

  B 10.0ml滴下時(=第一当量点):  酸性塩 NaHA の C = 0.0167M 溶液に等しい。 pH = 1/2(pKa1 + pKa2) = 1/2(1.27+4.27) = 2.77

  C 15.0ml滴下時(=第二当量点までの半当量点):  HA と A2− の緩衝溶液になっている。 pH = pKa2 =4.27

  D 20.0ml滴下時(=第二当量点):  中性塩 Na2A の C = 0.0143M 溶液に等しい。 pH を決めるのは、加水分解反応  A2− + H2O = HA + OH で、
  pOH = 1/2(pKb1 − log C) = 1/2((14 − pKa2) − log C) = 1/2(9.73− log0.0143) = 5.79   ∴ pH = 14 − 5.79 = 8.51

  指示薬は、 チモール・ブルー(0.04%水溶液、 赤→黄: pH=1.2〜2.8、 黄→青: pH=8.0〜9.6)を用いた。

  結果は、NaOH: 0ml のとき pH=1.90、 5ml のとき pH=2.16、 10.0ml のとき pH=2.97、 15.0 ml のとき pH=4.01、 20.0ml のとき pH=6.90、 20.10ml のとき pH=7.62、 20.15ml のとき pH=8.30、 20.20ml のとき pH=8.88、 23.0ml のとき pH=11.60、などとなった。
  このように、低いpHで計算値からのずれが大きく、蓚酸=”弱酸” の近似には無理があった。(* フタル酸(pKa1 = 2.92、 pKa2 = 5.41)などで実験した方が良かったと思われる) また、第一当量点は明確に出なかった。
   第二当量点は明確であり、滴定曲線が鋭く立ち上がる pH = 8.51 の所で、測定点を内分して NaOH 20.18ml であり、蓚酸の濃度は 0.0202M と推定された。 また、この濃度で、チモール・ブルーの第二当量点における変色は、黄色味が消えて完全に青になった所だった。

 

  ・ 尚、0.10M塩酸(一塩基酸・強酸)による 0.02M炭酸ナトリウム50mlの滴定は、第一・第二当量点が不明瞭に出るが、発生した炭酸を終点直前に煮沸して追い出すと、第二当量点が明確になる。指示薬は、第一当量点付近でフェノールフタレイン、第二当量点付近でメチルオレンジを用いる。



  3. キレート滴定の実験


  (1) キレート錯体の物理化学:

  ルイス酸(広義の”酸”、電子対受容体)である 金属イオンは、水中で水分子が結合した”アクア錯体”の形で、また、アンモニアとは”アンミン錯体”として安定であり、ルイス塩基(電子対供与体)である 水やアンモニア、シアンなどは”配位子”として金属イオンの周りに結合する。
  この、錯体の ”生成定数”(=”安定度定数”) Kf は、酸塩基反応の解離定数と同様に定義される。 例えば、
   Ag + NH3 = [Ag(NH3)] 、 Kf1 = [Ag(NH3)]/([Ag]・[NH3]) = 2.5×103
   [Ag(NH3)] + NH3 = [Ag(NH3)2] 、 Kf2 = [Ag(NH3)2]/([Ag(NH3)]・[NH3]) = 1.0×104 、より、
  全生成定数は、各段階の生成定数 Kf1 と Kf2 との積になり、 Kf = Kf1・Kf2 = 2.5×107 となる。


  ・ 錯体の安定度を支配する要因:

  @ z(金属イオンの電荷)/r(金属イオンの半径) が大きい(=ルイス酸性が強い)ほど、錯体を形成しやすい。
  この z/r 比 が大きい Be2+、Al3+、Fe3+、Sn4+ などは、水溶液中で水分子の酸素と強く結合して H−O結合を切り(=加水分解)、水酸化物が沈殿しやすい。(さらに z/r 比 が大きい Mo6+、W6+ などは、MoO42− などの”オキソ酸”を生成する。)
  各種の同じ配位子との生成定数は、 d殻遷移元素では、
      Mn2+ < Fe 2+ < Co2+ < Ni2+ < Cu2+ > Zn2+ (アービング−ウィリアムスの系列)  の順になる。

  A ルイス酸・塩基を”硬い”、”柔らかい”酸 あるいは 塩基で分類すると、分極しやすく π結合を作りやすい 柔らかい酸と柔らかい塩基どおしは結合しやすく、そうではない硬い酸と硬い塩基どおしが結合しやすい。

  B キレート効果: 一つの金属イオンに複数の配位結合をつくる配位子のうち、金属イオンを挟み込むように配位して環状構造(=キレート環)を形成するものを ”キレート配位子”と言う。(通常、5員環 または 6員環)
  このキレート配位子は、通常の単座配位子に比べ 安定である。(キレート効果) たとえば、水溶液における ニッケルイオンのアンミン錯体と、エチレンジアミン(en と略記、H2N−C2H4−NH2)との錯体では、後者の方が圧倒的に生成定数が大きく、安定である。この理由として最も大きく効いているのが、反応の ギブズの標準生成エネルギー 凾f の エントロピー項の効果である。

    1)  [Ni(H2O)6]2+ + 6 NH3 = [Ni(NH3)6]2+ + 6 H2O 、 Kf = 108.6 、 分子数の変化: 7モル → 7モル
    2)  [Ni(H2O)6]2+ + 3 en = [Ni(en)3]2+ + 6 H2O 、 Kf = 1018.3 、 4モル → 7モル
 であり、 差し引き、
    3)  [Ni(NH3)6]2+ + 3 en = [Ni(en)3]2+ + 6 NH3 、 K = 109.7 、 4モル → 7モル
 となる。
  3) の反応について、  凾f = −6.7×103 (J/mol)  凾g − T凾r
                      = (−1.2×103 (J/mol)) − (5.5×103 (J/mol))  ただし、T=298(K)  

となり、エントロピー変化 凾r の寄与が大きい。(* エンタルピー 凾g の増加は、メチレン鎖からの電子供与により窒素の塩基性が増したことによる)
  この エントロピー変化は、3) において、 反応系の分子: 4モル → 生成系の分子: 7モル に増加し、系の乱雑さが増したことによる。水溶液系におけるキレート錯体の特別な安定性は、主に、このエントロピー増大効果による

  その他のキレート効果には、 ・ 歪が少ない立体配座、 ・ 巨大環効果(**) がある。

  ** ポルフィリン環の中心に、それぞれ Fe、Mg、Co が収まった錯体の、ヘム、クロロフィル、シアノコバラミン(ビタミンB12)などの誘導体があり、生体において重要な働きをなしている。酵素は、アミノ酸が金属イオンを取り囲んだ構造のこれらの多様な超分子である。 また、人工的にも色素や触媒として多様に用いられる。


  ・ EDTA(エチレンジアミン四酢酸)によるキレート滴定:

  EDTAは 四塩基酸であり、H4Y と表す。(通常は、2Na塩として用いられる) EDTAの酸解離平衡は、
     H4Y = H + H3Y 、  Ka1 = 1.0×10−2
     H3Y = H + H2Y2− 、  Ka2 = 2.2×10−3
     H2Y2− = H + HY3− 、  Ka3 = 6.9×10−7
     HY3− = H + Y4− 、  Ka4 = 5.5×10−11
  EDTAの全濃度 C として、Y4− の分率 α4 は、
    C/[Y4−] = 1/α4 = [H4/(Ka1・Ka2・Ka3・Ka4) + [H3/(Ka2・Ka3・Ka4) + [H2/(Ka3・Ka4) + [H]/Ka4 + 1
であり、分率 α4 は 全濃度 C に依存せず、[H](=pH)のみの関数となる。

  金属イオン M2+ と EDTA の生成定数は、
     M2+ + Y4− = MY2− 、  Kf = [MY2−]/([M2+]・[Y4−])  で表されるが、計算がやっかいな[Y4−]の代わりに 分率 α4 を用いて、[Y4−] = α4・C を代入すると、

              Kf’ ≡ α4・Kf = [MY2−]/([M2+]・C)

  この Kf’ (条件付き生成定数)は、分率 α4 すなわち pH に依存するので、所定の pH における Kf’ の値が分かれば、滴定する M2+ の残量や濃度(pM=−log[M2+])を知ることができる。
  定量的な滴定をするためには、 [MY(4−n)−]/[Mn+> 103 は必要であり、そのためには、log f’ > 8 となる pH の範囲に溶液を調整する必要があり、各種のpH緩衝液を溶液に添加して用いる。(Kf’: グラフ参照 ↓)
  グラフより、たとえば、 pH=2 では、Ca2+ はEDTAとほとんどキレートを生成しないので、Ca2+が共存しても Fe3+ のみを定量的に滴定できる。 pH=7 では、Mg2+ を有効数字4桁で滴定するには適当ではなく、pH=10 が必要。また、pH=7 での M gの滴定曲線は当量点で pMg のジャンプが小さいので終点を検出できないが、pH=10では検出できる。

     


  (2) 亜鉛標準液による EDTA−2Na の標定:

  作製した約0.01MのEDTA−2Na水溶液の力価を標定するために、1000ppm亜鉛標準液(市販)10ml(=Zn: 10mg)を滴定する。
  (0.01M EDTA 1ml = 0.01×原子量 mg = 0.6537mg Zn)
  ホールピペットで10mlを正確に量り取り、脱イオン水で約50mlに希釈し、pH10緩衝液(NH3(28%)57ml + NH4Cl 7g /100ml)を 約0.5ml加えて pH=7〜10とし、指示薬として Cu−PAN(シーユーパン、銅PAN: 1g/50% IPA100ml)を3滴加えて、約0.01M EDTA−2Na で滴定する。(終点の色は、赤紫 → 黄

  滴定の結果、EDTA 15.42mlを要し、0.01Mとした計算値 10.00/0.6537=15.30ml と比較して、0.01M EDTA = 0.00992 と標定された。
     

  (3) ミネラルウォーター中の Ca、Mg の滴定:

  試料のミネラルウォーター(”谷川連峰の天然水”、ラベルには 硬度=24mg/lと表示)に含まれる マグネシウム および カルシウムを滴定する。
  (0.01M EDTA 1ml = 0.2431mg Mg = 0.4008mg Ca)

  1) Mg + Ca: 試料水 100.0mlをメスシリンダーで量り取り 300mlコニカルビーカーに入れ、上記のpH10緩衝液 約3mlを加えて pH=10 前後とし、指示薬として BT(EBT、エリオクロム・ブラック T、0.05g/100mlメタノール溶液)数滴を加え、上記の 0.01M(0.009922M)EDTAで滴定する。(赤 → 青
  結果は、EDTAの所要量 2.60mlで、 [Mg2+] + [Ca2+] = (0.009922×2.60ml)/100ml = 0.2392×10−3M だった。
  ∴ 硬度([Mg2+] + [Ca2+] を CaCO3(分子量=100.1) に換算した値(mg/l))は、 0.2392×10−3M × 100.1×10323.9(mg/l) であり、ラベルの表示値とほぼ一致した。

  2) Ca のみ: 試料水 100.0mlをメスシリンダーで量り取り、8M KOH水溶液 6mlを加え pH=12〜13 とし、しばらく攪拌してMg(OH)2を充分沈殿させる。(沈殿すると溶液の系外となり EDTAと反応しなくなる) 指示薬として NN希釈粉末(NN指示薬をK2SO4と1:100位で混ぜて 共に粉末にしたもの)を約0.01g(耳かき1杯程度)加えて滴定する。(赤 → 青
  結果は、EDTAの所要量 1.71mlで、 [Ca2+ = (0.009922×1.71ml)/100ml = 0.1697×10−3M となった。
  したがって、 [Mg2+ = 0.2392×10−3 − 0.1697×10−30.0695×10−3M 。

  * 因みに、東京都江戸川区の水道水も調べると、このミネラルウォーターよりも硬度が高く、68.0mg/lだった。 市販のミネラルウォーターの硬度は各地の差が大きく 4〜140 くらいといわれる。

  ( 注) Ca、Mgの濃度が高い場合 Mgの沈殿の時 Caが共沈して大幅に狂うので、充分希釈して滴定する。 鉄分などが多いときはマスキング剤としてトリエタノールアミン、KCNなどを加える。)


  (4) パーマロイめっき液中の Ni の滴定:

  パーマロイめっき液( NiSO4・6H2O 56.2g、NiCl2・6H2O 1.5g、FeSO4・7H2O 2.4g、H3BO3 7.5g、サッカリンNa・2H2O 0.9g を上皿天秤で量り取り、脱イオン水に溶かして 300mlにした液)中の Ni を滴定する。
  (0.01M EDTA 1ml = 0.5871mg Ni)
  めっき液を100倍に希釈して その10mlを取り 水を加えて約50mlにし、pH10緩衝液1.5mlを加えてpH=7〜12とし、含まれている Fe のマスク剤として 15%トリエタノールアミン 0.5mlを添加し、MX希釈粉末(ムレキシド)を指示薬として滴定する。(黄 → 赤紫
  結果は、0.01M EDTA 7.36mlを要し、計算値 4.304mg に対し、7.36×0.5871×0.9922= 4.28mg であり、やや薄めだった。

  一方、Fe (0.01M EDTA 1ml = 0.5585mg Fe)は、10倍に薄めた液から10ml取って50mlとし、10%H2O2 1mlで酸化して すべて Fe(V)としてから5〜10分煮沸しH2O2を完全に分解し、水を加えて50mlにすると、水酸化鉄(V)が沈殿する。多量に共存するNiを避けるために 沈殿を濾過して Feのみとし、1:1塩酸で溶出し水で充分洗い出す。50mlにしてから、pHを測定しながら10%NH3と 20%酢酸3ml (と 1:1 HCl) で pH=1.7〜3 とする。 指示薬は、VBB希釈粉末(バリアミンブルー)(青紫 → 無色)、あるいは、pH=2〜3で サリチル酸(赤紫 → 薄い黄)を用いても良い。 EDTA = 2.90mlで、Fe: 1.6mg。

 


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